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ネタばれ注意「舞台芸術の世界~ディアギレフのロシアバレエと舞台デザイン」
今週の日曜日に京都国立近代美術館で「舞台芸術の世界~ディアギレフのロシアバレエと
舞台デザイン」展を鑑賞しました。ので感想を書きます。
この展覧会は京都では7月16日(月)まで開催され、そのあと
東京都庭園美術館(2007年7月26日(木)~9月17日(月))、
青森県立美術館(2007年9月29日(土)~10月28日(日))
へ巡回します。いま詳しい内容や批評を読みたくないという人はここ
から下は読まないでください。




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 20世紀初頭、興行主として名高いセルジュ・ディアギレフに関わる画家や文筆家ら
にが結成したグループ「芸術世界」によって、ロシアの先駆的な舞台芸術の試みがな
された。その中でも、1909年に旗揚げされた「バレエ・リュス」(ロシア・バレエ団)
は、音楽・美術・舞踊が一体となった総合芸術として、その後の欧米のあらゆる分野の
芸術に大きな影響を与え、今日まで語り継がれているという。

 私はバレエやオペラなどの舞台芸術に関しては素人である。だから最初この展覧会の
告知を知った時は、何故これが舞台芸術における「歴史的事件」なのだろうか、と疑問
に思っていた。

 その答えとして、アラ・ローゼンフェルドはこの展覧会の図録の中でこのような旨の
ことを言っている。それまでの舞台芸術は、伝統的・形式的な写実主義者の凝り固
まった概念によって舞台美術が作られており、例えば家具は客間でも貧しい男の家庭
でも同じもので、物語の背景や歴史的な文脈、何ら配慮が払われずにしばしば同一の
セットが使われていたのだ。
 それが、ロシアという国の歴史を土台とした新しいレパートリーの演劇やオペラが
上演されるようになって、衣装やセットを歴史の正確な解釈に基づいて衣装やセットを
デザインしたことでロシアの舞台芸術が発展しはじめたということだ。

 そして、才能のあるダンサー、振付師、前衛音楽家・美術家、が結集して作り上げた
のが「バレエ・リュス」という総合芸術集団なのであった。

 今回の展示は、舞台の映像記録がほとんど残されていないため、舞台や衣装のデザ
イン画、当時の衣装、記録写真、ポスターやプログラム、パリ・オペラ座の再現映像に
よる構成だったが、特に衣装やデザイン画は単独でも美しいものが多かったので、素人
の私でも見て楽しめるものだった。

そして、バレエ・リュスの大きな特徴として、同時期の美術やデザインのムーブメント
(アール・ヌーヴォー、未来派、ロシアン・アヴァンギャルドなど)と互いに影響を
及ぼしあっていたことがあげられる。

 特に、今回の展示でも多くのスペースを割いていたアレクサンドル・ブノワと
レオン・バクストという2人の美術家は、古典主義を受け継ぎながらより装飾的で、
華やかな色彩の衣装を作っている。レオン・バクストはデザイン画だけを見ても、
特に「『ディアナの踊り』の衣装デザインや「ワツラフ・ニジンスキーのための
衣装デザイン(バレエ『ナルシス』より)」など、生身のダンサーのための絵として
生き生きとした、美しい絵を描いている。

 そのほか、ジョルジュ・バルビエ、ロバート・モンテネグロの版画集は、どちらも
バレエ・リュスの天才的なダンサー、ワツラフ・ニジンスキーの官能的な魅力を
ビアズリーを思わせる耽美的な雰囲気を強調して描きだしており、私の目を引きつけて
やまなかった。また、イワン・ビリービンはロシア古来の美を追求した結果、歴史的な
深みのある衣装を作った。ナタリア・ゴンチャロワは、伝統的な文様と鮮やかな色彩を
大胆に用いた舞台デザインで独自の美を追求し、セルジュ・ズデイキンは彫りの深い
人物描写と大胆なデフォルメが印象的である(特に「衣装デザイン(ミュージカル
『クリスマスキャロル』より」の特徴ある造形はすごい)。セルジュ・チェホーニンの
衣装デザインは、幾何学的な図形を組み合わせて軽やかな造形美を生み出している。

 同時期の美術やデザインの影響がもっとも色濃く出ているのはポスターやプログラム
といった広告・宣伝のデザインであった。このように、舞台、衣装から広告、それに
単なる記録にとどまらない、舞台からインスパイアされたかと思うような写真集や
版画集や磁器に至るまで、優れた芸術を生み出したのが「芸術世界」であり、バレエ・
リュスであろう。

 当時の舞台の記録映像はほとんど残っていないので、展示室内には、のちにパリ・
オペラ座により再演された「薔薇の精」「ペトルーシュカ」「牧神の午後」が放映さ
れていたが、小さいか画質が良くないかで細かいところまでよく見えなかったのが少し
残念であった。ただ、ダンサーの素晴らしい舞踊など全体としては楽しめるものなので、
展覧会へ行った時は是非見てほしい。

 約190点もの「芸術作品」ともいえる資料を集めた展示には感嘆するしか
なく、私はこの豪華な作品にもっと長く囲まれていたかったと思うのであった。
by imymegallery | 2007-06-27 23:37 | 展覧会の感想
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